D. 耐震性の確保
「この古民家に住んで、地震の時に大丈夫だろうか?」ということを第一の不安材料として思う方も多いでしょう。雨漏りや土台の腐れが解決しても、はたして地震にはどうでしょうか。
どうしても建て替えなければ仕事にならない住宅メーカーや工務店は、古民家をどう補強すれば地震の時にも安心できるかということは話しません。何でも怪しいものは「建て替えた方が安心だし、安いですよ」とあっさり言われてしまうことが多く困ったものです。またその言葉を鵜呑みにして、100年を超えて生き続けてきた真の200年住宅「古民家」をあっさり潰してしまうケースも少なくないのです。
しかし潰してしまっては、その古民家はもう二度と取り戻せません。地域のかけがえのない文化遺産「古民家」を一軒でも多く救いたいという意思と、どうすれば残せるかというノウハウをもった当社にご相談ください。その家をもう100年生かして住まうための手当ができるかもしれません。
古民家は柔構造。今の建築基準法の
剛構造とはちがいます。
耐震性を考えるにあたって頭に入れておいていただきたいのは、今の一般的な家と、戦前のいわゆる伝統構法の家とでは、地震に対するつくりがまったくちがっているということです。
現行の建築基準法では、建物の耐震性は「壁の量」として評価されます。壁の総延長が長いほど、耐震性は高いとみなされます。これを「剛構造」といいます。筋交いや構造用合板を入れた壁をもうけたり、金物で軸組を接合することで「がっちり、かたく」地震に耐えようとします。ところが古民家は、部屋と部屋の間には壁がなく、今の建物とくらべものにならないほど開放的です。
では、壁の少ない古民家は、地震に弱いのでしょうか? そうとは言いきれません。古民家の場合は、壁ではなく、太い柱や梁をしっかり組み上げた軸組に構造的な力点を置いています。太い梁が組み合った古民家の空間に立って、その力強さと美しさとに感動を覚える人は多いものです。構造材が見えていて、それが美しい意匠にもなっているという「構造、即、意匠」が、古民家の魅力です。
具体的な構造としては、柱や梁は「木組み」といって、端を凹凸に加工した「仕口」で接合し、木でつくった込み栓や楔という小さい部材でおさえます。そうした木組みが何重にも重なり、全体としては家が大きな鳥籠のような構造になっています。この全体が、地震の揺れに対して、木と木とがが多少めりこみあいながら一緒に揺れることで「やわらかく」地震力を受け流す、というのが、古民家の考え方です。これを「柔構造」と言います。
日本の職人たちが連綿と伝えて来た「柔構造」にはそれなりの合理性があるのですが、現代の科学でまだ解明されきっていないため、いまのところ建築基準法は「剛構造」の考え方だけを採用しています。ここ数年で、国交省主導で伝統木造の「柔構造」を科学的に検証するための実験や研究が進められていますので、数年のうちには伝統構法を正当に評価できる建築基準がででくることでしょう。
耐震診断を鵜呑みにせず「伝統構法が分かる」プロに判断をお任せください。
気をつけていただきたいのは耐震診断です。今行われている耐震診断は、「剛構造」をベースとした診断法ですので、本来「同じ土俵にのらない」はずの「柔構造」の伝統構法の家には、どうしても不利な結果が出てしまいます。太い柱や梁を使い、しっかりとつくられ、世紀を越えて地震に耐えて来た古民家が耐震診断にかけると「倒壊のおそれあり」とされるなどというおかしなことがおきています。耐震診断の結果を鵜呑みにすることなく、伝統構法の構造を理解している当社にその家の安全性や補強方法などについての判断をお任せください。
昔から残っている家であっても、生活の都合で構造的に弱くなる増築をしていることもあります。茅葺きの平屋を養蚕のために後から2階建てにした家や、家の中に風呂場をつくるために柱を切ってそこだけコンクリート基礎を立ち上げた場合、もとは柱があったはずのところを抜いてしまっている場合など、本来の耐震性を発揮できなくなっている例もあります。そういったことは図面や写真だけではなく、現場で判断しますので、ご相談いただければ同行させていただきます。
耐震性を増すいくつかの工夫
耐震補強をするにあたっては、その古民家のよさを損なわない形で補強するのが理想です。壁量を増やせば耐震性があがるからといって、庭に面した座敷に壁をつくるのは、せっかくの見せ場を台無しにしてしまうでしょう。
現代の家に合った耐震補強のやり方をそのまま古民家にあてはめると、補強した部分が「かたすぎて」もともと「柔らかい」全体にとってよくない影響を与えてしまうことが、近年の地震後の古民家調査報告からも分かってきています。
古民家そのものがもっている力の流れを知り、その流れに沿った形での補強を、「美しく」見せる「構造デザイン」が必要なのです。
一軒一軒、その答はちがいます。まずはあなたが住もうとしている古民家について、最良の解を見いだせるよう、最大限の努力をしたいと思います。