F. 今の暮らしに合った家に
古民家は、人間が自然界と共生していたころ、大家族が寄り集まるようにして住んだ時代の産物です。ところが、現代に生きる私たちは核家族であったり、個人のプライバシーが重視しされ、電化製品や電話やネットの回線なしでは生きられません。
「昔のままの家では暮らせない。生活が違うから…」とおっしゃる方には、そうした「違い」をも吞み込む包容力をもっているのが古民家なのです、とお答えしています。
1. プライバシー
昔の家では、「田の字プラン」といって、大きな空間を襖や障子で区切って部屋にしていました。冠婚葬祭や寄り合いといった大勢の集まりも自宅でしていたため、必要に応じて仕切りを取り払い、空間を広く使えるようにしていたわけですが、建具だけの仕切りでは音が筒抜けですし、そもそもある部屋に行くのに別の部屋を通っていかなければならない場合もありあす。空間を大きく使えるかわりに、各部屋のプライバシーという点でいえば「まったくない」といってもいいぐらいです。大家族でありながら、プライバシーのない中では、嫁の苦労もひとしおであったことでしょう。
こうした「プライバシーのなさ」は一般的には現代のライフスタイルに合いません。しかし、これを解消しようと1階を個室にだらけにしてしまったのでは、古民家のよさである開放性やのびやかさが失われてしまいかねません。当社では、1階は開放的なパブリックスペースをメインにし、子供部屋などの個室や納戸はなるべく2階につくることをお勧めしています。もともと2階が居室でなかった場合でも、養蚕に使っていた中2階や小屋裏を利用して小部屋やロフトをつくることが可能です。一部が小屋裏までの木組みが見える吹き抜けになっていて、一部に2階の床を兼ねた踏天井があってその上に居室があるという小屋裏部屋は変化があってとても魅力的な空間です。
2. 利便性
昔の家のままでは不便なのが、台所、風呂といった水回りです。これは、新しくつくり直すケースが多いのですが。水回りは痛みも早く、古民家の寿命ほどにはもちません。今、新しく設置するものであってもそうです。ですから、メンテナンスはしつつも、いずれそこだけは取り替えることになるかもしれないことを頭に入れて、家の構造部分と切り離してつくっておくことも一つの考え方です。このような考え方を「スケルトン&インフィル(骨組みと設備とを切り離す)」といいます。
新築の場合は壁の中や床下に設備配線をしこむことができますが、すでにある古民家では、電気のコードなどを後からまわさなくてはなりません。敷居にからめたり、たたみの隅を利用したり、押し入れの中をまわしたりと、なるべく表には見えないような形で、かつ各部屋に必要な分のコンセントを取り付けられるように考えます。
明るさも大事
3. バリアフリー
昔の家は玄関土間から框へは「よっこらしょ」とあがりますし、縁側と畳敷きとの間にもちょっとした段差があったりと、バリアフリーにできていないことが多いものです。そういった段差のある家に結構、かくしゃくとしたおじいさんが住んでいたりもするのですが。
段差をなくすことばかりがバリアフリーではありません。トイレの幅を心持ち広めにしておくとか、風呂場を引き戸に、あるいは折り戸にするなど、新しくつくる部分の開口部に少し余裕をもたせるだけでも、体の自由のきかない人にとってずいぶんと使いやすくなる場合も多いものです。
いろいろと述べましたが、古民家再生にも当然「これが正解」というものはありません。すべては、住まわれるご家族の「選択」にかかっています。ご家族がどのような生活を希望するのかに応じて、どのように再生できるかが、決まってくるのです。当社ではご家族との対話を大切にしながら、そのご家族にとっての最良の解答をともに探していくお手伝いをしたいと考えています。