遺跡となったパルテノン
今なお現役のパンテオン
アテネのパルテノン神殿は、崩れてしまう前は、木造の切妻造りと同じ姿をしていました。文明が樹を切り尽くしたことで、木造建築を石造建築として写したのでしょうか? あるいは人間の似姿でありながら巨大な神が住む家である神殿は、大型化する必要があり石造が選ばれたかもしれません。
パルテノン神殿がいまや記念碑的にのこる「遺跡」であるのに対して、ローマのパンテオン神殿は約1900年の歳月を経ても破損することなく現役のまま、その威容を誇っています。この耐久性の違いは何でしょうか?
パルテノン神殿が軽い木材を石材という重く固い材料に置き換えて造られているのに対して、パンテオンはローマにおける建築技術の進歩によって可能となった、石材にふさわしいドーム構造でできています。自然に逆らわない力の流れが、建築物を今に至るまで力強く支えています。ローマの建築の技術力の高さには驚かされます。
パルテノン的な
ジャポニズム近代建築の危うさ
日本の近代建築の歴史にもジャポニズムはあったようです。例えば巨匠・丹下健三が設計した山梨文化会館は、まるで巨大な日本の木造建築の架構を連想させます。鉄筋コンクリートの発明により、人類は巨大建築物においても、桂離宮のような軽快で明るい空間を手に入れたいという欲望を叶えました。しかし、これらの建造物が、意外と短命なのです。例えば我が町の庁舎であった旧甲州市役所に目を向ければ、立派な鉄筋コンクリートの建築物であったのに、わずか47年で危険であるとして解体されました。
現代になって新しく登場したかのようにみえる建築手法も、過去の建築技術の置き換えであることが少なくありません。鉄筋コンクリートによる柱梁構造(ラーメン構造)は、パルテノン神殿と同様、木造建築をコンクリートで写したものです。現代の耐震補強で用いられる鉄骨のブレースは、トラス構造という昔からある西洋の木造建築の様式です。ビルの免振という耐震方法は、日本の伝統木工技術の石場建に他なりません。
自重が重いのに、まるで木造建築のようにつくる柱梁構造の鉄筋コンクリート建築は、やがてパルテノン神殿と同じ運命をたどるのでしょうか? それを暗示するような事故が中央道の笹子トンネルで起きました。自然の力の流れで支えるボールト構造のトンネルそのものは何ともないのに、自然に逆らって吊った重いコンクリートの天井版はもろくも崩れ落ちたのです。
石造は石造らしく、木造は木造らしく
自然の法則にしたがった構造で
社会資本の蓄積による豊かなまちづくりを考えるとき、建築物の耐久性は重要です。自然に逆らった構造は建築物の短命を招きます。木造建築を重い石造に置き換えたラーメン構造のビルは、構造的には不自然であり、耐用年数は短いと考えられます。石造(コンクリート造)には石造の、木造には木造の建て方があるはずです。自然の法則に反して建築することで、社会資本が蓄積せず赤字国債が積み上がるのでは、私たちはいつまでも豊かにはなれません。必要な予算を掛け、強固に造り、時に修繕を行い、これを長く使う文化が求められています。