住まい手の声 インタビュー

突き上げ屋根の家

眼下にぶどう畑、裏にはなだらかな里山に続く畑というすばらしい眺望の地に永住の地を求められたYさんご夫妻。弊社では、お二人が住まわれる家として、この地に元あった古民家の材を活かし、甲州民家らしい「突き上げ屋根」をもった新築民家を建てさせていただきました。

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右からYさんと、奥様、それに伝匠舎 石川

畑で野菜をつくり、いずれは裏の広い敷地で果樹も、と夢をふくらませておられる、移住されて半年後のお二人を訪ねました。

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古材利用での新築で実現した田舎暮らし

「子ども達が独立したら、古民家で田舎暮らしを」という夢があり、日本民家再生協会の「民家の学校」に参加したりしていたのですが、縁あってこの塩山の地で、明治始めに建った古民家と出会いました。家そのものもよかったのですが、空の広い小高い丘の上にあって、耕作放棄地の荒れ地ではあったものの、広々とした農地もついているのが気に入って、購入しました。

その民家に手を入れて住むことも考えたのですが、伝匠舎の石川さんに見ていただいたところ、かなり傷んでいて状態は良くないとのこと。家全体を直すとなれば莫大な予算がかかることが分かり、二の足を踏んでいたところ「二人でお住まいになるなら、元の民家の古材を活かして、こじんまりとした家を新築するのもいいかもしれませんよ」との提案をいただき、おかげさまで、今のような暮らしができています。

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元の家の材を大切に使わせていただいています

元あった家を解体した時に、まだ使える材や建具は、この新しい家に活用することに。中でも圧巻なのは、居間と寝室の境にある大黒柱です。今は吹き抜けのてっぺんに見えているその柱頭部分は、元は屋根裏に隠れていたためか荒削りで、大木そのものの力強さと野趣に富んでいます。この柱は、前の家が明治に建てられた時、すでに古材の再利用だったそうです。つまり、我が家で使われるのが「3回目」。それ以前に、あの太さにまで成長する時間、山に生えていたのですから、途方もない年月ですよね。

今でこそ、黒く艶光りする古材と、明るい肌色の新材との違いがはっきりと分かりますが、年々、馴染んでくるのでしょう。それも楽しみです。板戸なども、なるべく元あったものを使っていただきました。新調の建具では出ない、落ち着きや深みがあって、いいですよね。もう使えないとなった材すらも、薪ボイラーで床暖房に使う燃料として役に立ってくれていて、助かっています。

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甲州民家らしい「突き上げ屋根」

この家の特徴は、切り妻屋根の上にもう一層高く乗っかった、突き上げ屋根です。我が家の近所の古い家にもありますし、駅前の甘草屋敷もそうですが、このあたりの民家らしい屋根の形です。「ここに、富士山が見えるテラスが欲しい」という私たちの希望を、石川さんが、この地域の民家にふさわしい形で実現してくださいました。遠い将来には「平成の甲州民家」と言われるようになるかもしれません。

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高いところからの光で明るい暮らし

私たちの生活のほとんどは、南向きに掃き出し窓のある、二間続きの畳の間で済んでいます。奥は天井を張った寝室で、上がロフトになっていますが、手前の居間は、屋根裏まで吹き抜けになっています。その高いところに窓があるので、お日様が燦々と降り注ぎます。屋根裏になるロフトも、突き上げ屋根の出窓からの光のおかげで、明るいのです。「縁側は日が射しても、奥までは届かない」という古民家特有の暗さはなく、明るく暮らせるのは、ありがたいです。

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民家の「いいとこ取り」ができて、本当によかったです。

新築を決断するまで、週末ごとに元あった古民家に通っていたのですが、そのよさを感じる一方で、暗さや寒さをそのままで住むのは厳しいものがあるなと、特に冬は無理!と思ってもいました。結果的には「古材利用の新築」という選択をしたことで、民家の味わいのある表情や風格と、無理のない住み易い暮らしを兼ね備えた「民家のいいとこ取り」が自分たちの資金に見合った形で叶い、大正解でした。

「古民家再生」は予算やクリアすべき条件のハードルが高くても、古材利用の新築にまで視野を広げれば、実現の可能性が開けるかもしれません。私たちの家が、田舎暮らしをお考えの方にとってのひとつの先例となって、まだ現存する「せっかくの古民家」がひとつでも多く活かされていくことを願っています。

もちろん、そのためには、古い家の構造的な安全性や、再利用に耐えるかどうかといった判断や、確かな仕事ができる技術をもった工務店の存在が必要です。伝匠舎さんから歩いていけるようなところで土地と古民家を得られたのは、幸運でした。おかげさまで「民家のいいところ取り」で望んでいた暮らしを実現できていて、本当にありがたいです。

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注)甲州民家本来の「突き上げ屋根」は、左右対称の切り妻屋根の中央に、カミシモをつけた福助人形の頭のように迫り出した形をしています。この家は、東西に棟が通った切妻屋根ではなく、東の玄関土間部分に下屋がかかっており「福助型の甲州民家」本来の姿をしてはいません。ひとつのバリエーションとしてとらえていただければと思います。

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