2021年10月20日
恩師、畑野先生の思い出
弊社の神棚には、出組で二重の扇垂木、総反りの素晴らしいお堂の模型が御社として祀られています。これは私が恩師と慕う畑野経夫先生(文化財建造物保存技術協会元参与)が、高校3年生の時に作った秀作です。
残念ながら先生とはもうお会いすることはできませんが、神棚から毎日叱咤激励をいただいている次第です。
国の一級史跡「甲斐国分寺」の上に近世の建立になる国分寺が建っていました。当時、山梨県東八代郡一宮町は国・県の補助金を得て移転補償費を計上、新しい移転先では国分寺の新築の話が起こりました。これに待ったをかけたのが畑野先生です。先生の出身は山梨県一宮町、現存する国分寺は腐朽が進んでいるように見えるが、江戸初期に建立された貴重な建造物であるので、これを保存修理すべきと国分寺の総代会で熱弁、これによって新築案は覆り、保存修理が決まったのでした。
国分寺の古建築は本堂、庫裏、薬師堂、鐘楼門の4棟です。平成13年(2001年)10月に第一期工事に着工、平成20年(2020年)第8期工事が竣工、調査設計から数えれば足掛け8年をさらに超える工程であったと思います。設計管理は文化財建造物保存技術協会です。移転が完了してから4年後の平成24年には、畑野先生の念願がかなって国分寺の建造物群は一宮町の指定文化財となりました。当時様々な議論はあったものの、完成してみれば誰もがその素晴らしさに感嘆し、移築してよかったと理解したのでありました。先生の古建築保存に寄せる信念の強さには、若輩ながら深く感じるものがありました。
あるとき畑野先生から「私が作った模型があるので持ってきてくれないか」との連絡をいただいて、平成17年3月4日、トラックを運転し甲府工業高校に伺いました。約半世紀の歳月を経てその模型は壊れ、部品もなくなって倉庫の奥に忘れられてありました。了解をいただいて早速持ち帰り、弊社の若い大工で甲府工業高校出身の者がおりましたので修理させましたが、なかなか簡単には直りません。驚くことに、そのお堂は小さいながらも出組で二重の扇垂木、総反りという代物です。
畑野先生からいただいたものがもう一つあります。先生が所蔵されていた文化財建造物修理報告書などの書物です。昨年、訳も分からず大変ありがたくお受けし、弊社の文庫蔵の棚を空け、納めさせていただいた図書は1500冊を優に超えます。大型の移動式本棚5本分にも収まらない膨大な図書の山には「畑野文庫」と名前を付けさせていただきました。
今日までいただいた多くの御恩に報いるべく、これからも先生を弊社の恩師として崇め、後輩にも伝え、古建築の保存修理に先生のような強い信念をもって、一塔入魂の思いで努めてまいる所存です。畑野経夫先生、長い間お世話になりました、どうぞ安らかにお休みください。
伝匠舎 株式会社 石川工務所
代表取締役 石川重人